「21世紀の資本」とは?
みなさん、r>gって知ってますか?
投資系のブログとかでよく紹介されるあれです。
これはピケティっていう新進気鋭の経済学者が2013年に発表した「21世紀の資本」という本で示された結論なんですが、なんと過去200年以上にさかのぼり20ヵ国ものデータを分析した結果、資本収益率(r,Returnの頭文字)は経済成長率(g,Growth)を上回ってる!ということがわかったんです!
んん?どういうことだ??
要は、世界経済の成長より金持ちの財産の増え方の方が大きいってことらしい。
さらに言い換えると、労働によって得られるお金より資産運用によって得られるお金の方が大きいということ。そしてこの傾向は特に何もしなければこれからも続きますよと。
つまりこの不等式のまま今の資本主義のシステムを継続すると、富めるものはさらに富み、貧乏なものはもっと貧乏に、そしていつしか中流階級はいなくなり貧富は二極化しますよ!っていう富の不均衡を主張するものです。
なに!これは酷いっっ!

この本は5500円もするのに全世界で300万部も売り上げた大ベストセラーで、日本でもバカ売れしてます。ただ読破した人は実は少ないと思われる。
だってさ。728ページもあるんだもん・・
は?読む気失せたわ。寝よ。(てかまだ本すら買ってない)
っていう私のような人向けに制作されたのが今回の映画な訳です。
監督のジャスティン・ペンバートンさんも
「ぶっちゃけ本ちゃんと読んでない人多いっしょ?そういう一般のオーディエンス達にこの映画を届けたいわけよ。(意訳)」と語ってます。
タイトルはそのまま「21世紀の資本」

と、いうことで観てきました。久しぶりにパンフレットも買った!
(パンフ買うのとか小学校以来だったわ)
公式サイト

トレーラー
49歳らしいけど若いわ
買ったパンフレット


映画の内容
内容としては、18世紀ごろから現代までの経済の歴史を「資本」というキーワードを軸に解説していくという映画です。
ピケティ始め著名な経済学者がナレーションをしつつ、実録の映像(戦争やニュース映像など)や有名な映画・アニメのワンシーンなんかを交えながら進んでいきます。
「レ・ミゼラブル」や「ウォール街」など知ってる映画が出てきた時はちょっとテンアゲ。
ヒュージャックマンは出てこなかったけど。あでもマット・デイモンとかキーラナイトレイは登場してたな。

原作の「21世紀の資本」は難しい数式やグラフなどが多用されてるみたいですが、映画ではそういった眠い類のものは全く出てきません。監督の言うとおりだ!
映画の始まりは18世紀から。
この時代は貧富の差がもっとも際立っていた時代の一つで、人口の1%が世界の富の20%を支配していた。欧米に限って言えばもっとひどい数値で、この時の奴隷労働者を売買する映像や、貧乏人役のキーラナイトレイが貴族にキャッキャする映像が印象的に残っています。
この資本の格差が庶民の怒りや不満を膨張させ、それが限界に達した時、革命や世界大戦が起こった。(ここで戦争の実録映像)

戦争により深く傷ついた人々が、暴力により奪い合うことよりも、自由な資本主義経済によって発展して行こう、という方向に舵を切る。(ここでレーニン大統領演説の映像)

トレイラーにもありますね(0:39~)
そして現在まで自由主義経済は発展に次ぐ発展をしてきたのだが、そこには大きな問題が・・・
とこんな感じで18世紀から現代までの経済の流れを追い、最終的には現在の資本主義の問題点とその解決策を提示します。
なんか最後、人間は馬になるぞ的なこと言ってました。
ピケティの主張
ピケティいわく、18世紀以降徐々に緩和されつつあった貧富の格差(富の集中)がここ最近になって18世紀ごろの水準まで戻ってきているとのことです。
そんな中でr>gですよと。不等式なんですよと。
何事も時間が経てばバランスの取れた状態に落ち着く=均衡するというのが自然の摂理ってやつですが、不等式のまま放置すればどんどん差は拡大していく一方ですよね。
落ち着く場所があるとすれば、それは貧富の完全な二極化という終着点。
過去200年を分析したデータでいうと、
r=資本収益率は年率5%、g=経済成長率は年率1.7%という差があります。約3倍ですね。
これがピケティが言う経済の不均衡。
r>gの例は映画でもいくつか出てきますが、その一つが中国。
近年めざましい経済成長を遂げているでお馴染み中国ですが、そんな中国のここ15年(20年だったかな?正確には忘れた・・)での労働者の賃金は約900%上昇したんだとか。
おおさすが中国だなと思うところですが、一方でなんと富裕層の収益は2000%も拡大したそう。す、すげえ。

重要なこととして、ピケティはr>gを決して否定はしていません。
確かに資本主義って元来そういう事ですから。資本こそ力。
しかし、rをごく少数の人口で独占しているという事。及び階層間の移動がほとんど発生していないという事に対して強い危機感を感じていると言います。

ピケティが映画の中で特に問題だと話していたことは次の2つです。
- 資産の相続の仕組み
- 法人税徴収の仕組み
それぞれについて見ていきましょう。
資産の相続の仕組み
まず、相続についてです。
富の一極集中がなぜ起こるのか、それは世代間で相続されていくからだとピケティは言います。
たまたま金持ちの家に生まれたという理由で、親から巨額の資産を相続し悠々と暮らしながらその資産を運用し拡大することに生涯を費やす。
その拡大のペースは労働者の3倍。
一方でその他大多数の家庭に生まれた人は厳しい競争にさらされ、残された少ない資本を奪い合う。
これが富が独占される主な原因の模様。

特に良くないのが、貧困層に生まれながらも才能があるという人が埋もれてしまうこと。金持ちの子が都落ちすることは殆どない。
親は選べないのに現状余りにもチャンスに差があるのでは?と。
公平な競争を勝ち抜いたとしても、一代で富裕層と同程度の資産を作るなんて無理じゃないか!と。
相続しても良いけど、資産(お金・土地・権利など相続される全て)のある程度の割合に対して今よりも高い税金をかけるなどして回収し、それらを貧困層に対し分配する必要がある。とピケティは主張します。
法人税の徴収の仕組み
次に、法人税を徴収する仕組みについてです。
「地球上の富を独占している少数の大金持ち」とは、実は個人だけではありません。
そう、グローバルに巨額の利益をあげる大企業です。

ここでピケティが指摘しているのが、かの有名なタックスヘイブンを利用した逃税が横行しているという現状です。普通企業は利益を上げると、利益のうちの決められた割合を国に納めるのがルールです。(法人税)
但し、この法人税をどこの国に納めるかと言うのが問題。ざっくり言うと選べちゃう。
現状のルールでは以下のような税金逃れが可能となっています。
1.法人税がめっちゃ安い国(=タックスヘイブン)にダミーの子会社(=ペーパーカンパニー)を建てる。
2.世界各国であげた自社の売り上げをそのペーパーカンパニーの利益という事にする。
3.ペーパーカンパニーが設置されている国で法人税を支払う。正当に支払うよりめっちゃお得。
タックスヘイブンについてさらに詳しく知りたい方はググってください。
パナマ文書の名簿リストや「ダブルアイリッシュ・ウィズ・ア・ダッチサンドイッチ」(アップルが発明した驚異の逃税スキーム)とか興味深い事実が沢山。。

ピケティは当然この税金逃れはあってはならないと言い、対策として世界各国が共同で税金を徴収する仕組みを作るべきだと主張しています。
例えば年間の売り上げのうち20%をフランスであげたなら20%分はフランスで法人税を支払う。そのほかの割合についても、その国で上げた利益はその国に法人税を納める。
これが本来の姿。
会社の拠点は移動させることができても、お客さんを移動させることは出来ません。全世界がタッグを組みルール作りをするのが重要です。
今話題のあれもこれも、キーワードは格差
前述のようにピケティはr>g自体は否定していません。
問題なのは貧富の格差が広がり続け、かつ階層間の移動がほとんど発生せず固定化されてしまっているという現実です。rをごく少数の人口が独占し、それが相続されるというサイクルです。だから少し仕組みを改良する必要があるのだと。
いくら働いても豊かにならず富裕層の資産が急速に拡大する状況が続くと、貧困層はその捌け口として不満の矛先を民族、宗教、特定の組織などにぶつけ始めると言います。貧困層の地域の治安はどんどん悪化していくんだとか。
これってまさに今のコロナ禍に伴う貧困層の表層化と、一部の過激なBLM運動そのまんまですよね。あとコロナ禍に対する経済政策の是非とか、実体経済と乖離して加熱していく経済市場とかを見て「資本主義これで良いのか」などの議論も聞かれます。
こんなんタイムリーすぎてピケティもビックリだわ。
最悪の展開として、フランス革命の様に貧困層の不満が大爆発する時が来るかもしれないとピケティは警告していました。
そういえば最近流行った映画って格差を扱ってるのが多いよなあ。ジョーカーとかパラサイトとか。時代は確実に格差を意識し始めてる。

映画「ジョーカー」ラストの台詞
コロナによって社会は大きく変革するって連日言われていますが、落ち着いたときに富の再分配についてもきちんと議論できる様になれば良いなと思います。
感じたこと
この映画は現代の資本主義経済が抱える問題点をデータを基に示し解決策を提案した訳ですが、じゃあ現在ごく少数の資産家側に居ない私としては今日からどうしていけば良いんでしょうか。
一刻も早く資産を築いて「r」を得られる様に頑張る?

“あっち側”にいけば勝つる
頑張っても無理なんだから、もう諦めて慎ましく生きるしかない?

“あっち側”に行くのは
この現実に我慢ならない。声を上げて反乱を起こす?
(いや、そこまでは追い詰められていなかった。)
個人的には、一個人としてそこまでこの不等式に囚われるのも違うなあと思います。
一個人として、r>gに縛られるのも良くない
例えばこの映画を観て、ああ自分も今すぐ投資して資産運用しなきゃ!みたいに駆り立てられる必要はないですよね。
ピケティが一番言いたいのはそこじゃなくて、税制を見直して格差を緩和しないと!て言うこと。(資産運用の勉強は大事だとは思います)
とまあ、一歩引いて考えられるのも自分にある程度の経済的余裕があるからなんだろうなあ。
あと、もし仮に自分が極度の貧困に陥ったり相当な金持ちになったとしても、人として大切な何かを失いたくはないなと思いました。
とある人生ゲームで金持ち役の人はもれなくどんどん横柄な態度を取る様になる。という恐ろしい社会実験が映画で紹介されていました。面白かったなこれ。
お金以外の「return」もある
最近、お金が全てじゃないじゃん的な価値観も徐々に広まってきていると思います。
金は最低限で好きな事をして暮らすのが幸せですということに対する憧れとか、金だけあっても本当に幸せですかみたいな疑いとか。
価値観も多様化して昔ほど資本に対する盲信はない。人生の目的は自分なりの幸せであってお金じゃないよねという価値観です。
個人的にも、本当に考えるべきことは自分がどうなりたいのか?ということであって、あえてr>gを曲解すると、自分のもつお金以外の資産(自身の能力・仲間・家族など)を運用していくことでリターン(幸せ)を継続的に得られれば良いんだろうなって考えました。なんかうまく説明できないけど

最後にもう一度ピケティの主張について考えます。
税金徴収の仕組みはちゃんと整えるべき
ピケティが言う様に、相続と法人税に関しては累進資本課税できっちりと回収する仕組みを作るべきだと思います。
正直なところ例えばタックスヘイブン問題について、現状大企業が逃税しているのは仕方ない。自分が大企業の財務管理人でもするんじゃないかなって思う。だって何百億も特になる魔法の方法が存在しちゃってるんだから。(一例ですがgoogleの逃税額は年間1200億円にも及ぶそうです。)
規模は全然違うけど、「個人でできる節税法」とか必死で調べてるもん。一日かけてふるさと納税の返礼品を厳選してるもん。
だから、そういう逃げの方法が許されない様なルールをちゃんと作るべきですよね。
でその国で儲けた分はその国に納税すると。
日本だって本来貰えるはずの法人税をめっちゃ損してますよ。Amazonが日本に税金納めてない!ってよく話題になってましたよね。
ただ、最近は改善され始めてるみたい。良い傾向です

だいたい日本人が海外の大企業の利益にどれだけ貢献してきてると思ってるんですかね。日本市場めっちゃでかいですよ。
そういう企業から税金をちゃんと回収しないで、「税収が厳しいなあ。。せや、消費税増税しよ!」っておかしいですやん。もうむしろ多めに法人税とってやれ!
相続税についてもそうですよ!累進課税でもっと税金とってやれ!
良い映画だった
最後にまとめると、個人的にはとても良い映画でした。
ただ全く興味のない人が娯楽として観るのには眠くなるだけかなとは思います。わかりやすくドキュメンタリーチックに仕上げてはくれてはいますが、教育系の映画なので。
r>g聞いたことある!とか、トレイラーを観てなんか気になる!て思った人は観に行くと良いと思います。原作はとても読む気にならないですもんね。
ピケティの主張に賛同するなら、個人としてまずできることはこういう現状を知り、考える。可能であれば発信する。そして選挙にちゃんと行って若者の投票率を上げる(若者の多くは貧困層)とかでしょうか。
ピケティ自身はこの映画を娘に観せて感想を聞きたいと言っているそうです。確かに子供には観せたい映画だなと思いますよね。
経済の勉強という意味でも、格差について考えるきっかけという意味でも。
あれば良い前提知識とか
別記事でまとめます。(多分)
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